
演劇 スクールが大々的に変わるのは今回が初めて?
そこで、次章から、健診や人間ドックでの実際の例をあげ、上手に人間ドックを受けるための参考にしていただきたい。
そもそも健診も人間ドックも、痛いとも津いとも感じていない全く症状のない、〃健康人“を本来は心配しなくてもよいはずのデータが、過剰に取り上げられてしまって、病気に4o健診は主に学校や職場などで、生徒や職員が健康であるかどうかを判断するのに実施される。
人間ドックは個人個人が意志に基づいて検査を受ける。
前者がなかば強制的におこなわれるのにたいして、後者は自ら経済的な負担をしてまでも自らの意志に基づいて検査を受けることに大きな違いがある。
健康な人を検査するわけだから、すべての検査は正常の結果になるはずである。
もしも異常があるとしたら、それを見落とすわけにはいかない。
こうした観点から、健診や人間ドックでは、ちょっとした異常をも見落とさないために、どちらかといえばオーバーに判定することが多い。
同じ検査を病院で受けたとしたら、「まず問題ないでしょう」といわれるほどのごく些細な異常結果が出たとしても、「要再検」、あるいは「精密検査を要する」、などといった判定になるこまちがわれてしまう危険性がある。
また、何らかの人為的なミスが、異常所見として判定されてしまうこともある。
こうしたことも、健診なり人間ドックにまつわる落とし穴といえる。
見落とされるのも迷惑千万だが、過度に心配させられてもかなわない。
そんな落とし穴の例を紹介しよう。
他山の石としていただきたい。
カリウムというのをご存じだろうか。
人カリウムは水に溶けて、細胞の中に多く含まれている電解質の一種である。
細胞がさまざまな機能を果たすのに、とても重要な役割を果たす。
重要な役割を果たすだけに、細胞内に含まれる濃度は、微妙に調整され、濃度が極端に狂うことはめったにない。
ついでにいえば、同じく電解質のナトリウムは細胞の外に多く、細胞の中には少ない。
つまり、カリウムと反対の分布を一示す。
さて、血液を流れるカリウムも、その濃度はきわめて精密に調整されている。
検査値からいえば、三・五?五・○mEq/jというとても狭い範囲に調節されている。
だから、カリウムの検査値というのはめったに異常とならない。
また、異常になるとすれば、からだに大変な出来事の起きている場合だけだ。
この医学的な〃常識〃を覆す事件があった。
会社の産業医から著者にあてた紹介状を持って、二四歳のOが著者の外来診察室を訪れてきこれが狂うとしたら、腎臓がまるっきり働かなくなってしまった腎不全という病気になってしまったときか、細胞がどっと壊れる筋肉炎などの場合だけだ。
さらに、極端にカリウムが高くなれば、心臓の拍動が止まってしまい、突然死を起こす原因と紹介状をみると、会社でおこなった健診で、カリウムの異常が発見された。
が、なぜカリウムが異常なのか判断できない。
ついては、カリウムの異常になる原因について診断をして欲しい。
こういう内容の紹介状だった。
紹介状には、会社でおこなった検診のデータを添えてあった。
その結果表を見た著者は、顔面といわず、からだ中が思わず凍りついてしまった。
すでに話したように、カリウムの濃度はごく狭い範囲で調整されている。
少しでもはずれようものなら、大変なことだ。
だいたい、五・五mEq/j以上にでもなれば、心臓に不整脈が起きてしまう。
六を超えれば、心臓が停止してしまうおそれがある。
一○を超えて平気な顔をして、歩いて来られることなんてあり得ない。
著者は思わずOの足を見た。
が、ちゃんと二本とも足はそろっている。
普通に息もしていとなれば、よほどに悪い腎不全か。
そうも見えない。
第一、腎臓の働きを示す尿素窒素、クレアチニンという検査にはまったく問題がない。
そんな腎不全なんかあろうはずがない。
とにかくおこなうべき事は、検査結果が正しいものかどうかを見極めることだ。
早速、著者の病院でカリウムを再検査してみることにした。
血液を採取し、検査室に提出した。
待つこと四○分。
著者の勤務する病院では、診察室の机の上に置いてあるコンピュータ画面に、検査が実施され次第、検査結果がすぐに表示される仕掛けになっている。
Oの検査結果が、ぱっとコンピュータ画面に表示された。
著者は目をこすってコンピュータの画面を食い入るように見つめた。
カリウムのデータは、そこには、まったくの正常値が示されていたのだった。
ほかの腎臓の検査でも何の異常所見もない。
つまり、Oは健康そのものだった。
とすれば、あの一○・五mEq/jという値は一体どうなったのか?著者はその原因を探ってみることにした。
もし彼女のカリウムが三・八というのが本来のデータとすれば、一○・五という数値は、健診のときに何かのまちがいがあったに違いない。
となれば、その健診の手順をたどるのが一番だ。
そう思い、著者は紹介してきた医者に電話をして、健診のシステムを確認することにした。
その結果、ほどなくして謎が解けた。
Oの勤める会社は、東京の新宿から電車で二時間ばかり離れた所にある。
その会社の健診は、産業医に依頼して、会社の医務室でおこなっている。
尿、血液検査の他、心電図や胃バリウム造影検査などがおこなわれた。
検査に支障があってはいけないので、朝食は抜きで、午前中に全員の健診を済ませたという。
ここまでは、いっさい何の問題点も見当たらない。
問題はそこからだった。
大きな総合病院では、ほとんどのところで病院の中に検査室が設置されている。
病院で検査を受ける場合、血液や尿は病院の中で検査され、結果はすぐに報告される。
つまり、検査する血液も、新鮮なうちに測定されるわけだ。
が、会社の医務室では、そうはいかない。
検査をする設備など会社にあろうはずもない。
その会社が契約している検査センターは横浜市内にあった。
その検査センターからは、会社がある地域の診療所や医務室などで依頼される血液など検査のための検体を、毎週月、水、金曜日夕方六時ごろに回収にでかけていた。
そして、その夜のうちに一括して検査をおこなっていた。
毎日回収するのでは採算が取れないためらしい。
会社の健診は火曜日の午前中であった。
Oは九時半に採血されたそうだ。
だから、Oの血液が採血されてから検査センターに運ばれたのは、少なくとも三二時間以上もたってからだ。
しかも、検査は夜だから、実際に検査がおこなわれたのは、採血してからそうとうな時間がたながら、検査を専門に扱っている業者(検査センターという)に検査を依頼しなければならなその間、Oの血液は何も処理されず、放置されていたのだった。
これだ!思わず著者は手を打った。
大勢を対象にした健診だから、採血という行為そのものも、丁寧ではなかったかもしれない。
そのうえ、血液はそのまま三二時間以上も放置されていた。
となれば、その間に、試験管の中で赤血球が壊れた可能性がある。
からだの中では起こるはずのないことが、試験管の中では起こりうるのだ。
赤血球は立派な細胞だ。
だから、赤血球の中には、カリウムがたくさんある。
その赤血球が壊れれば、カリウムが漏れ出てくるのは当たり前だ。
そして、Oの血液を調べれば、カリウムが異常な高値となってしまった。
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